廻りの輪(めぐりのわ)

廻りの輪(めぐりのわ)

水平線文庫短編大賞応募作品

『廻りの輪(めぐりのわ)』 作 鐘崎 那由他

 

俺(入間修)は、真っ暗な中で目が覚めた。昨日誕生日で25歳になって、そのあとの記憶がいまいち思い出せない。女の人の声で目が覚めた。
「ようやくお目覚めですか?えーっと入間修(いりまおさむ)さん、年齢は25歳と、死因は交通事故あっていますか?」
おもむろに俺は返事をする。
「ん?死因?交通事故?んん?どういうことだ?」
俺は激しい頭痛を感じながら身もだえる。
女性は、めんどくさそうにしゃがみ込み俺のことを眺めて言う。
「あーやっぱりそこから説明必要ですかぁ。めんどくさいなぁ。あなた、入間修さんは死にました。ここは輪廻の入口で私は天地(てんち)みのりといいまして今回は入間さんの案内役を担当します。」
彼女は俺を覗き込みながら自己紹介をした。
とりあえずだるい体を無理やり起こして胡坐をかいた。そして、俺は思い出せる範囲の記憶を語りだした。
「俺、誕生日きて、友達と飲みに行ったんだっけ。そこまでは記憶ある。」
彼女は「そうですね。記録によるとそのあと車ごと海に落ちたみたいですね。」と、事務的に返してくる。
「え、海に落ちた?ほかの大輔とか、宏人とかあいつらは?」
俺はとっさに一緒にいた連れの名前を口走った。
「詳しいことはわかりませんが、おそらく魂の回収が済み次第こちらに来ると思いますよ。私は、あくまで入間さんの担当なので。ただ、この世界ですれ違ったとしてもお互いを認識することはできません。あまり気にしすぎないことですよ。」とやはり事務的に答えてくる。
彼女は、とりあえず立ち上がった俺に「さぁどこから行きますか?」と笑いながら訊いてくる。
「さぁ輪廻パークへようこそ。楽しんで行っちゃいましょ~!!」と楽しそうにしゃべってくる。今までの彼女はものすごく事務的だったのに。
「りんねぱーくってなに?輪廻って何?…」と理解が追い付かないことをいくつか尋ねていた。
「輪廻パークっていうのは、天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道の6つのエリアからなる。閻魔様が運営する黄泉の国のテーマパークです。」彼女はあっけらかんと反応に困るようなことをさらっと言ってのけた。
「え、、?よみのくに?てーまぱーく?何言ってんの?………」俺は唖然としながらつぶやいていた。
「まぁ詳しい説明は後でしますから、とりあえず人間道エリア行っちゃいましょうか~」
さっきまでの雰囲気とは一転彼女はノリノリでそう言ってのけた。
「ここ人間道エリアはですね。あれに乗りますよ。その名も輪廻コースターです。さ、乗りましょ~。みのりこれ好きなんですよ。あー楽しみだなぁ。」みのりは僕を引っ張っていく。
「ちょっ、ちょっとまってくれ。あれ、ずっと回ってるように見えるけど、どのぐらい乗るんだ?」俺は恐る恐るみのりに訊ねた。
「え?7日間に決まってるじゃないですか?たまにご高齢の方が乗っちゃうと2日ぐらいで飛ばされていっちゃうこともありますけど。入間さんなら7日間は余裕ですよ。」と笑いながら言ってのける。
「高齢だとなんで突然飛ぶかとか、気になってるんですか?それはですね。単純に気絶しちゃってとか、前世に未練がなくて幽体を維持できないんですよ。飛んで行っちゃった人たちは、閻魔様の判断で転生先に配属されます。ここ輪廻パークは、魂の洗濯をするために運営されていますから。洗濯が終わった魂は転生待ちをしながら、みのりみたいにキャストとして働くんですよ。」みのりは輪廻パークのことを少し説明してくれた。
「わかった。あれに乗るのは絶対っていうことなんだよな。魂の洗濯か、いつまでも前世の未練を断てないとずっとこのままってことか。おっし覚悟決めていくか。……」と決意を固めたか否や、みのりが何やら叫んでいる。
「あ、空いたみたいですよ。さ、いきますよ。」
「え、もう行くの?まって、心のじゅん…」
「3,2,1どーん!!」
「ちょっちょっちょっと。わ゛、わ゛、わ゛っ」俺は一瞬気を失っていたようだ。
気が付いた俺は「死ぬ死ぬ死んじゃう。」っと叫んでは気絶を繰り返していたらしい。
やっとのことで地上に戻された俺は「死ぬかと思ったぁ。」と零していた。
「入間さん面白いんだから。乗ってる間も死ぬ死ぬって言ってるし、今だって死ぬかと思ったって。だってもう死んでるじゃないですか。もう、やめて、おなか痛い。。。」としゃがみ込んで大笑いしている。
「さ、次はここですよ。」とみのりは歩みを止めて僕に言ってくる。
「ここは修羅道のバトルパークです。」といいにくそうに言う
「修羅道ってことは、、、戦うのか...」俺は深く考えないように口に出す。
「そうですねざっくりいうと7日間殺しては死に、を繰り返すところですね。順番受付はさっきしておいたので私は観覧席で待ってますね。行ってらっしゃい。」とそそくさと行ってしまった。
「ふがぁ」
なんか一瞬くらっとしたが目が覚めたら頬が痛い。
「あれ?左目が、、、見えない。」おそるおそる手で触れてみる。そこにはあるべきものそのものがなかった。
「えっ、目がない。え、でも痛くない。そっか死んでるから痛くないのか。」当たりまえのことに気付くのに時間がかかった。
そんなことに思いをはせている間にも相手は襲い掛かってくる。
「ゔぉぉぉぉ」と声にならない声で向かってくる。
避けようと思っても体が重い、とりあえず手近にある石のようなものを拾う。
少しねちゃっとするが、かまわず相手に殴りつける。「こっちだってやられっぱなしは嫌だ。」持っていた塊は瞬く間に爆ぜ、服にまとわりつく。
「これは、、、」俺はその塊が何であったのかを悟り、記憶の彼方に葬り去った。そのあとのことはよく覚えていない。
「ん゛んん、、」目が覚めた俺は、みのりにもたれ掛かっていたらしい。
「入間さん。お疲れさまでした。修羅道は大変だったでしょ~」と少し笑いながら語り掛ける。
その後俺はみのりに連れられ、天道、餓鬼道、畜生道を廻った。
「ここで最後ですね。最後は地獄ですね。ここに入ったら私とはもうお別れですね。さっき腕時計が3回光っていたので、順番が来たみたいです。」とみのりは少し寂しように言ってくる。
「こんなこと言うのだめなんですけど、最後が修さんでよかったです。私いつもびくびくしながら案内役してて、修さんやさしい人だし面白くて、すごく楽しかったです。」
「そっか」俺はあっけらかんと答える。
「お、俺もみのりが案内役でよかったよ。ずっと楽しかった。そりゃぁ大変なこともあったけど、君で、、、いや君がよかった。君に会えてよかった。みのりのことが好きだ。」俺は無我夢中でみのりを抱きしめていた。
「ちょっ、修さん?何やってるですか?もう会えなくなるから私だって我慢してるのに。そんなことされたら私だって修さんのこと好きなのに。。。」みのりは照れながら
「私が修さんの事見つけに行くから待っててくださいね。修さんまだ地獄エリアと、転生までの順番待ちあるから、忘れちゃいそうで怖いです。」俺のことを不安そうな目で見つめてくる。
「だ、大丈夫だよ。。」俺は頭を掻きながら言うがみのりは信用してくれない。
「ほら、もう不安そうじゃないですか。修さん自信ないとき頭よく掻いてるんですよ。もしかして気づいてないとでも思ってたんですか?ほら~そういうとこですよ~だらしないなぁ。」みのりは少し笑いながらも楽しそうに笑っている。
みのりの時計が何度も点滅している。
「修さん、私が絶対見つけますからね。すぐ来てくださいね。もう私行かなきゃなので、修さんまたね。」そういうとみのりは時計の光に包まれて消えてしまった。
俺は地獄エリアでの修行を終え、輪廻パークのキャストになった。
「これからは、俺もみのりみたいに何人もの案内をしていくのか。」
キャストになるときに渡された、この時計の光に呼ばれる日が来るまで。
もう何人の案内をしただろうか。そろそろかなぁと時計を眺めていたら懐かしい光が時計を包み込んだ。どうやら順番が回ってきたらしい。
「やっとか、やっとみのりに会える。」そう思いながら、光に身を任せて不思議な温かい何かに包まれてどこかに運ばれていく。
気が付くと温かい人のぬくもりに包まれていた。
俺はすくすくと大きくなり、小学校の入学式後に隣の女の子に、「あなた、私と結婚するのよ。ほら忘れてるじゃない」って微笑みながら、とてもうれしそうだった。
「まぁいいわ、今からどれだけ時間かけてもあなたに私のこと思い出させてあげる。だって、私が見つけるって約束したんだから。わたしはずっと待ってたんだから。」女の子からは強い何かを感じた。
―完―

 

お話一覧に戻る